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保育士は保育のプロフェッショナル
保育士は、乳幼児期の教育と児童福祉の現場で、子どもの保育と保護者の支援を行なっています。
保育は、子どもの人格形成に影響を与え、社会全体に影響を及ぼす仕事です。
そして保育は、厚生労働省が告示した、保育所保育指針に基づいて、保育所での保育内容や運営について基本的なことが定められています。 保育所ではそれぞれが掲げる理念に基づき保育を行なっていますが、子どもたち全員のことを考慮すると一定の水準が必要になります。
全国の保育所が共通して取り組むアウトラインとして使われるのが保育所保育指針です。
保育所保育指針 解説書によれば
「子どもは、保育士等をはじめ周囲の人からかけがえのない存在として受け止められ認められることで、自己を十分に発揮することができる。 そのことによって、周囲の人への信頼感とともに、自己を肯定する気持ちが育まれる」と記されています。
①子どもをとりまく世界への信頼感を育む
子どもは自分のそばであたたかく見守り応答的に応える保育者によって、安心感を得ます。
子どもが保育者への信頼感を持つことで、周囲の様々な自然や人などに働きかけ、世界を広げていくことができます。
その中で子どもが生きるために必要な力を身につけていきます。
保育者は、乳幼児よりも圧倒的に強い立場にあります。
日々の関わりを通して、子どもの人を信じる力を育むことができます。
反対に保育者は他者への不信感を子どもに植え付けてしまう可能性もあります。
子どもが自分を取り巻く世界が安全で良いものだと感じるか、それとも危険で信頼できないものと感じるか。 保育者との関わりは、子どもの世界への関わり方の基礎をつくっています。
②子どもの自己肯定感を育む
子どもは、周囲の人との関わりの中で、自己のイメージを作っていきます。
周囲の保育者が子どもに対してあたたかく応答的に接する時、子どもは自分は愛される存在であると感じます。
反対に、冷たく無視されたり、否定的な言葉を投げかけられると、子どもは自分は愛されていないと認識します。
保育者が「ダメ」「危ない」「〇〇して!」と子どもの行動を否定し、命令するばかりでは、子どもは無力感を感じて臆病になったり、人の顔色を伺って行動するようになったりします。
乳幼児期は、子どもの人格の土台を作る大切な時期です。 保育者が日々行う応答的な関わりが子どもの肯定感(自分はいい人間である)や有能感(自分はうまくできるという感覚)などの自分に対する、確かな信頼感を育んでいきます。
③保育者のふるまいが子どもの行動モデルとなる
幼児期は、人として良いこと、してはいけないことを学習する敏感期です。
保育者が思いやりにあふれた行動をしていると、多くの子どもが友だちに思いやりのある行動をとるようになります。
反対に保育者が、「一番お片づけが早いのは誰かなー」と日々競争をあおっていれば、子どもは「早いことや、先生にほめられることがいいこと」と考えるようになるかもしれません。
「誰が一番早いかな」と言われて、お友だちを助けようとする子どもはいないでしょう。
また保育者が「○○ちゃんは本当に遅いんだから」とつぶやくと、子どもは「ダメな人は、言葉や態度で否定していい」と学びます。
乳幼児期の子どもにとって最も憧れる大人のモデルは保育者です。
保育者の言葉・行動を真似します。 保育者のふるまいは、子どもの行動や価値観に影響を与えています。 保育者の話の聞き方、話し方、動き方、けんかの時の対応などが、毎日の子どもの行動に取り組まれていきます。
④子どもの保育には、プロとしての専門知識が不可欠
0~3歳の子どもとの関わりはとても難しい。
家庭ではたった一人の我が子に対して、体罰や叱責が使われることがあります。
子どもを叱る時に、たたく、つねるなどを使ってしまうことがあるのです。
乳幼児期の子どもの行動を理解するには専門知識が必要です。
赤ちゃんは食事のテーブルに登ろうとし、お皿を投げ、スリッパをなめます。
2歳の子どもは友だちにおもちゃを貸すことはできません。
これらは発達上どれも正常な行動ですが、発達を理解していない大人は子どもを叱ります。
乳児は食事の仕方も、トイレでの排泄もやり方を知りません。
言葉で表現することもできず、 泣いたりわめいたりすることで、自分の感情や欲求を表現します。
また、大人の言葉だけでは行動できず、教えても「はいわかりました」と一度にできるようにはなりません。
保育者はその子どもを集団で預かり、体罰も叱責も使わずに、遊びや生活の援助を行います。
0歳児は3人に対して保育者1人、1、2歳児は6人に対して保育者1人です。
専門的な知識や技術を持たずに保育を行うと、家庭の保護者よりも不適切な関わりが増える可能性があります。 保育士は、プロとしての専門知識と技術が必要なのです。
⑤保護者が親として成長することを支える
子育ては学習が必要です。
それは、パパやママも同じです。
初めてのことはわからないし、見たことがないこと、知らないことはできません。
保育者は2年以上の専門の学習や国家試験の学習で保育を学びます。
それでもわからないことや不安が沢山あります。
保護者は、多くの場合、子育てについて学ぶことはなく、いきなり親になります。
家事、仕事と並行しての不慣れな子育てを負担と感じる保護者もいるのは当然です。
乳幼児の行動は、大人には理解しにくいことも多いので、毎日不安や悩みが起きます。
子どもに対して怒鳴ってしまう保護者は「困っている保護者」です。
怒りの裏側には、恐れや、不安や、悲しさや、自信のなさが隠れています。
保育者はその保護者が新しい育児の行動を知ることの支援ができる立場にあります。
乳幼児期は、保護者が子どもとの関係を作り、親として成長するスタートの時期です。
子どもと同じように親も自然に親になるものではなく、親子関係も親としての成長も、良い環境の中で育まれます。 保育者は、子どもの保育と同じように、親が親として成長できる環境を構成し、必要な支援を行い、協働することで、保護者の子育てを支えることができます。
プロフェッショナルとしての意識
プロフェッショナルとしての保育者は、保育所保育指針に則り、子どもの発達課題を学び、専門知識に基づいて保育を行います。
また、客観的な状況の中で子どもの発達や様子などの事実に基づいて保育を計画し、展開します。
しかし、残念なことに、全ての保育者が、プロフェッショナルとしての意識を持っているわけではないのが現状です。
従来の規則や決まり、自分の意見や好みで行動を決めます。
「私はこう思う」
「今までこうやってきたから」
「うちの園ではこう決まっているから」と保育の関わりを決めます。
そこには、時代とともに変化する子どもたちの様子をみて悩むこともないし、変わっていく社会を学ぶ必要も生じないのです。
プロフェッショナルとしての保育者は、専門知識と事実という根拠に基づいて判断し、柔軟に変化し行動します。
目の前の子どもや状況に合わせて考えるために常に悩みが生じます。
悩む保育者は、根拠や解決法を探して、本を読んだり研修を受けたり、見学したりと学び続けます。 プロフェッショナルとしての保育者が、とても謙虚なのは、変化する相手や状況に合わせて、自分の考えとは異なる理論や実践を学び続けるからなのです。
保育士はお互いを理解し合う視点で「聴く」
保育園は様々な人の集まりです(人生観・価値観・年齢・保育観)。
働き方も様々です(職種の違い、正規、非常勤、契約、パート) 一人一人が保育園という組織に不可欠であり大事な保育園の「人財」です。
でも、一人ひとり、性格も違い、育ってきた環境も経験も違います。 合う人もいれば合わない人もいます。
同じ出来事でも「大丈夫!」と楽観的な人もいれば「どうしよう」と悲観的に捉える人もいます。
自分で「なんとかしないと」と考える傾向の人もいれば、「誰かに助けを求めよう」と思う人もいます。
でも、自分の癖がわかっていなかったりします。
だからこそ疑問に思ったときは、「それってどういう意味?」「どうしてそれが必要?」と声をかけ、相手に聞く習慣をつけると、
「こんなこと考えているのは自分だけ?」「私はみんなと違う?」などと悩んでいたことが、話してみると自分の思い込みに気づいたり、違う視点で捉えることができるようになります。
気になること・心配なことはみんなに聞くことです。
素直に聞いてみなければ、心配や不安は悪化するばかりで、
「こんなこと言ったらどう思われるだろう?」
「否定される」
と不安ばかり感じて相手の言っている言葉も耳に入らない状況では、 子どもとの会話も、遊びも上の空で事故が起こりかねません。
大人だから、保育者だから完璧でなければとか、立派でなければではなく、ありのままの自分を、弱さを含めた自分をさらけ出していいのです。
一生懸命に生きている姿は皆に伝わります。
間違ったら「ごめんなさい」
困っているときは「助けて!」、
感謝の気持ちを「ありがとう!」 子どもたちはそんな大人の姿をよくみています。
SMILE 第2章 聴き上手になろう!
●子どもを批判したり、罰したりすると何が起こるか?
●どのようにすれば、好ましい人間関係を築けるか?
●どうすれば子どもや保育士、保護者の話を上手に聴けるか?
人間には、耳が2つ、口が1つあります。言う2倍聴きましょう。